CV値の考察(1)概説
一昨年までDecoderはDigitraxと天賞堂のQSIが中心で一部Lenzを使ってきましたが、最近はLokSound5やNGDCCも使い始めました。そんな中で、各社のDecoderのCV値が会社、機種によってかなり異なっていることに気づきました。そこでCVについて調べたことを掲載します。ご参考になれば幸いです。
CVの話をするためにはDCCについて簡単に説明します。
鉄道模型は英国が発祥と言われており、その後ドイツのメルクリン等ヨーロッパを中心に発展してきました。モーターで動かす電動鉄道模型は、3線式のアナログAC方式が最初でした。
50年以上前に私が初めて手にした鉄道模型は3線式のOゲージでACでした。電子機器や半導体の発展で今はDCが当たり前になっていますが、昔はDCで電圧可変を行うことは簡単ではありませんでした。その点ACは巻き線式の変圧器で二次側巻き線からタップを取り出すことにより電圧可変(連続では無く、例えば2V単位で)することが容易でした。私が最初に買ったものもこのタイプでした。海外では今でもAC機があると聞いていますが見たことはありません。
その後、アナログDC機が発売され、今ではアナログDCが鉄道模型の主流になっています。普通のアナログDC機は線路から電源を取りそのままモーターに供給しています。つまり、アナログDCのパワーパック・コントローラ等はDC電圧0V~最大電圧12V(HO)までスロットルの位置に応じた電圧を線路に供給し、それによって車両のモーターが回転し車両が動くことになります。基本的にスロットルと電圧は直線的(linear)に対応しています。
アナログDCでは、基本的に同一線路に搭載された車両は、全て同時に動きます。アナログDCの大きなレイアウトでは、給電区間を複数もうけるなどで、複数の車両を別々に動かすこともできましたが、基本は同一給電区間では一車両しか運転できません。このため鉄道模型各社は独自のデジタル方式を開発しましたが、互換性がなくなかなか普及しませんでした。
その様な状況下でNMRA(全米鉄道模型協会)がデジタル方式の標準化を進めDCC(Digital Command Control)規格を制定しました。欧州の鉄道模型標準規格(NEM規格)を制定していたMOROPもNMRAに協力し、DCCが事実上のデジタル鉄道模型の世界標準になりました。DCC規格以外ではメルクリン社のメルクリンデジタルが独自規格であります。
DCCに関する書籍は非常に少なく、これが我が国でDCCが普及しない原因の一つではないかと思います。私が持っている書籍は
DCC マニュアル2009 根津 達也著 機芸出版社
本ブログでこの文書から引用する場合 "DCCマニュアル" と記載します。
だけです。英文では、Digitrax社が出している BIg Book of DCC が有名ですが、私は残念ながら持っていません。
Digitraxの日本語版マニュアルはホビーセンターカトーが発行していましたが、ホビーセンターカトーの新しいHPではDCCを見つけることができません。旧HPでは各種マニュアルとして、用語集を含め7種類が販売されていました。デコーダ関係では
29-170 デジトラックス・デコーダマニュアル基礎編 (2005年7月改訂)
29-105 デジトラックス・デコーダマニュアル応用編 (2004年5月改訂)
の2冊を所有しています。
本ブログでこの文書から引用する場合 "Digitrax(日本語版)" と記載します。
また、永末システム事務所のNGDCC製品については欧米のDCCメーカ並みに製品別の日本語マニュアルが手に入ります。
欧米メーカのマニュアルは、各社のHPからD/L可能です。機種別のマニュアルを提供している会社については、代表的な機種のマニュアルを掲載しています。
今回参考にしたManual類は
- NMRA
NMRA Standards s-9.2.2 Configuration Variables For Digital Command Control, All Scales July 2012 (12ページ)
本ブログでこの文書から引用する場合 "NMRA"と記載します。
- Lenz社
Information STANDARD+ V2 (Art.Nr. 10231-02)
5. Auflage / 5th Edition / 5. Edition 11/20 (68ページ)
本文はドイツ語、英語、フランス語で記載されています。このInformationに詳細は "Manual Plus Decoders"と出ているのですが、HPで見つけることができません。
本ブログでこの文書から引用する場合 "Lenz" と記載します。
- Digitrax社
Digitrax Mobile & Sound Decoder Manual Second Edition (86ページ)
Mobile Decoder Manual (70ページ)
本ブログでこの文書から引用する場合 "Digitrax(英語版)" と記載します。
- ESU社
LokSound5 Instraction Manual 6. Edition June 2019 (112ページ)
A4横書きで左右に記載されており、実質的にほぼ倍のページ数に相当します。
本ブログでこの文書から引用する場合 "LokSound5" と記載します。
- QSI社
NMRA DCC Reference Manual For QSI QuantumⓇ 3、2 and 1 Equipped
Locomotives
Version 5.2.0 for Firmware Versions 7, 8 and 9 5-August-2015 (468ページ)
本ブログでこの文書から引用する場合 "QSI" と記載します。
- Soundtraxx社
Tsunami2™ Digital Sound Decoder Steam Technical Reference (133ページ)
CVだけが説明されています。
本ブログでこの文書から引用する場合 "Soundtraxx" と記載します。
とても全てを読むことはできませんので、必要に応じて参考にしました。
Soundを搭載したDecoderを販売している、LokSound5、QSI、SoundtraxxのManualのページ数が非常に多いのは、Sound系のCV値について詳細に説明してあるためです。
また、 Sound を搭載すると、動力性能・走行性能に関わるCV値を変更する必要が増えるのも実態です。例えば、蒸気機関車のブラスト音を動輪の回転に同期させたい、電気機関車などの力行音と惰行音を使い分けるため速度により使い分けたい、等々でCV値を変更する必要が生じるため、CV値の説明が増える傾向にあります。
英文の理解間違いや記載があるにもかかわらず探し当てられなかった項目もあると思います。その点をご理解いただきお読みいただくようお願いします。間違い等について、ご指摘いただければ幸いです。
CVの日本語訳はDigitraxのマニュアルで「コンフィギュレーション変数」と記載されていますが、Configuration Variablesを訳せば構成変数、環境変数、配列変数等と訳すのだろうと思います。
DCCを使っている方は、少なくとも一つのCVは変更していると思います。それはCV#1です。(CV番号を明確にするためCV#番号と#を入れます)
DCCで初めて車両を動かす際、CV #1(Primary Address 以後( )内の英語名称は原則としてNMRAの名称です)のDefault Valule(初期値)は3に設定されています。従って車両アドレスを3に設定してコントローラを動かせば車両は動き始めます。しかし、他の車両も車両アドレスが3に設定されていれば他の車両も動き始めます。このため、CV#1を3以外の番号(1~127)に設定変更する必要があります。
DCCではExtended Addressも使うことができます。Extended Addressを4桁アドレス(Digitrax日本語),LongAddress(LokSound 5)と記載されている例もあります。Extended Addressを使うと128-9999(デジトラックスでは9983までになっています)のアドレスを使うことができます。個人でDCCを使う場合はPrimary Address で十分だと思いますが、クラブレイアウト等で多くの人が一つのレイアウトを使う場合にはExtended Addressが必要になると思います。次回以降使い方を記載します。
同一メーカのDCCシステム・Decoderを使っている場合、CV#1(Primary Address)以外を変更する必要は殆ど無いと思います。しかしCV値は多くのことを変更できる変数で、CVのことを知ることによりいろいろなことができるようになります。例えば異なる会社の機関車で重連運転する場合、そのままではスロットルに対する反応が異なり、変な動きをすると思います。また、前照灯、尾灯等の灯火の制御も思うように行かないかもしれません。このような場合、適切なCV値を変更することにより意図した動作にすることができます。
ただし、Digitraxの英文Manualには、5.1 What are Configuration Variables (CVs)? に,通常はDefaultで十分なので、CV#1(Primary Address)以外のCV値変更は慎重に行うように、と記載されています。ということで、CV値の変更は自己責任でお願いします。
前述の通り、DCCの規格はNMRAで規定されています。NMRAはNational Model Railroad Association(全米鉄道模型協会)の略称でDCCのみならず、鉄道模型全般の規格を制定しています。過去に私は電気通信の標準化に関係していたことがありますが、NMRAの活動をHPで見る限り、かなりきっちりした手順で標準・規格の制定をしているようです。
DCCについては、NMRAのHPでStandards タブからDCC Sectionから見ることができます。
”NMRA Standards & Conformance Department's Digital Command Control Working Group"のオフィシャルサイトと記載されています。このDCC Sectionでは標準・規格に関する活動状況が掲載されています。
実際の標準・規格はStandardsタブでStandards and Recommended Practicesに現行の標準・規格が全て見られるようになっています。
NMRAは鉄道模型全般の標準・規格を制定していますので、線路や車輪などの規格も掲載されていますが、DCCに関しては、S-9 ELECTRICAL の S-9.2 DCC Communications Standard に掲載されています。S-9.2は2004年に制定されているようです。
DCCのCV値については、2012年に制定されたS-9.2.2 DCC Configuration Variablesに記載されています。
この文書は、12ページで構成されています。
2ページにTable 1 Multi-function Decoder Configuration Variables が掲載されています。この表にはCV#1からCV#1024まで規定されていますが、かなりのCVは "Reserved by NMRA for future use" となっており、現状では使われていないようです。この表には "Required" の欄がありM(Mandatory) (必須項目)、R(Recommended)(推奨項目)、O(Option)(任意項目)に分類されています。Mはわずか4個のCVだけで、Rもわずか4個のCV、Oが362CVになっています(数え間違いがあるかもしれません)。Oの中にはManufacturer Unique, SUSI Sound and Function Moduleが多く含まれていますのでこれらを除くと約100項目以下です。
いずれにせよ、基本的に各Decoderメーカが設定できる項目が多く、各メーカの考え方によりCV値をいろいろな目的で使っていると言えます。
CV値を理解する上で重要なのは、CV値が基本的にビット単位(Binary、2進数)で設定されていることです。一方CV値を書き込む際には多くの場合10進数で書き込む必要があります。2進数といった途端に難しそう、となりそうですが要領さえ覚えれば、簡単に2進数から通常使う10進数(Decimal)に変換でき、10進数の数値をCVに書き込めばすぐ使えます。
ただユーザーを惑わすのは、各社の取扱説明書(manual)でCV値の表現方法がバラバラになっており、中には10進数と16進数が併記されているものもありますので、注意が必要です。
そこで、CV値について、私なりに解説してみたいと思います。
CV値は電子機器で各種設定に用いられるディップスイッチが8個並んでいると考えれば良いと思います。
ディップスイッチの一個一個がビットに相当しており、8ビットとはON/OFFできるディップスイッチが8個あると考えれば良いのです。ただし、デジタルでビットを表現する場合、0ビットから数えますので表現は、Bit 0、Bit 5等と表現します。またディップスイッチの1は通常左から始まりますが、デジタルの表現ではBit 0は右から始まります。
具体的には、Bit 7, Bit 6, Bit 5, Bit 4, Bit 3, Bit 2, Bit 1, Bit 0 と表現されます。また、Bit 7をMSB(Most Significant Bit)、Bit 0をLSB(Least Significant Bit)と記載されることもあります。各Bitは1又は0が格納されています。ディップスイッチでONが1,OFFが0と考えれば良いわけです。十進数に直すのは、数式的には
1×Bit0+2×Bit1+4×Bit2+8×Bit3+16×Bit4+32×Bit5+64×Bit6+128×Bit7
となりますが、各Bitは1か0ですから1になっている(1の時ビットがたっているとも言います)Bitの前の倍数を足せば良いのです。
例えば
二進数の 01001101 は 十進数では
128×0+64×1+32×0+16×0+8×1+4×1+2×0+1×1=77
となりますが、ビットが立っているところだけ足し算をしていることになります。
Bit |
Bit7(MSB) |
Bit 6 |
Bit 5 |
Bit 4 |
Bit 3 |
Bit 2 |
Bit 1 |
Bit0(LSB) |
|
Binary |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
0 |
1 |
|
128 |
64 |
32 |
16 |
8 |
4 |
2 |
1 |
|
|
Decimal |
|
64 |
|
|
8 |
4 |
|
1 |
77 |
"Value"と言う表記はLokSound5使われています。またDigitraxでは"CV Value"と表記されているようです。
ESUのLokProgrammerを利用すると、Decimal(十進数)とBinary(二進数)のどちらでも入力することができます。Binaryで入力するときは、ビットを立てる(1を入れる)Bit に✔(チェック)をするだけです。上の表と見比べていただくと理解できると思います。
各Bitの使い方にはいくつかの使い方がありますが、基本的には2つの使い方があります。
一つ目は、車両アドレス(CV#1)のように全てのBitで表される十進数に意味があるものです。こちらは間違った数値を入れてもそれほど問題になることはありません。もちろんアドレスや最高速度などが変わります。ただしCVの一部には"0"や"1"に特別な意味がある場合がありますので気をつける必要があります。
もう一つの使い方は、各Bitにそれぞれの意味があるものです。
例えば、比較的変更する場合があるCV29(Configuration Data)では、Bit 0は"Locomotive Direction"で列車の進行方向です。DecoderのMotor配線を間違った場合、前進するはずが後進します。そんな場合配線をやり直さなくてもBit0を"1"にすれば解決出来ます。CV29のBit 1はSpeed Steps and FL Locationです。現在は殆どのDecoderが128 Speed Step対応ですが、DCCの規格上は14Step,28Stepも許容されています。“0” は 14 Speed Step Mode、“1” は28 and 128 Speed Step Modeになります。またBit 4 はQSIのみ"Speed Table set by configuration variables"で“0” はSpeed Table not used、“1” はSpeed Table set by CV 25 で、CV25はQuantum Speed Table selectionになっています。このBitはQuantum機では重要な項目になります。
各Bitにそれぞれの意味合いがある場合、十分注意してCV値を変更しないと全く動かなかったり、意図しない動作をしてしまいます。
ここまで、CVについて一般的な説明をしました。
次回以降、個別のCVについて、動作グループ毎に説明しますが、CV値は原則として10進数で表記します。